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AIレビューシステムの限界に挑戦した 「契約書に対する印紙税チェック機能」

2024年6月26日、LegalOn Technologiesは提供するAI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」において、新機能「契約書に対する印紙税チェック機能」β版の提供を開始。
開発背景には、法務実務における顕在的なペインだけでなく、潜在的な法的リスクの存在がありました。
その詳細を、開発メンバーである弁護士の軸丸、法務開発山本、志喜屋、海野にインタビュー。
法務の方だけでなく、総務や経理など他の管理部門の方も必見です!

学ぶ機会が少なく、画一的な判断ができない印紙税

開発に携わった弁護士の軸丸

― 印紙税とはどのようなものでしょうか。

軸丸 印紙税とは、印紙税法で定められた、契約書などの文書を作成した場合に納付することが義務づけられている税のことです。
不動産売買契約や業務委託契約(請負契約)、債権譲渡契約、定款や領収証などの文書が対象となり、印紙税の納付は、収入印紙を貼付して行われることが一般的です。

印紙税への対応において特に悩ましいのが、契約書への印紙税の適用です。
適用すべきかどうかの判断は以下のフローで行われますが、

  1. 契約内容が印紙税法に規定される第1号〜20号のいずれかに該当するかを判断(契約書が該当するのはそのうち8タイプ)する

  2. 非課税文書に該当しないか判断する

  3. 契約金額によって異なる印紙税額を判断する

中でも厄介なのが1.です。
契約類型から形式的に「第何号に該当するか」を判断することが難しいため、契約内容をよく理解した上で判断しないといけないのです。
複数のタイプにまたがるような契約内容の場合は、ベテランの法務の方でも判断に悩むケースもあります。

― そんな判断の難しい印紙税法に対して、実際の現場において今はどのように対応しているのでしょうか?

軸丸 印紙税法を体系的に学習する機会というのは意外に多くありません。
特に新しい取引先との契約締結時などは、「おそらくこれであっていると思うけれど……」と、不安を抱えながら判断されている方もいらっしゃると思います。

また、契約書への印紙の貼付は契約内容に合意後の締結作業時の業務なので、総務など法務以外の方が判断しているケースもあります。
そういった場合、より判断が正しいのかどうか、困ることは多いように思います。

さらに、法務機能が社内にない企業様などでは、単なる慣習で印紙を貼付しているといったケースもまだまだ散見されます。

― そういった状況下では、どのようなリスクが考えられるのでしょうか?

軸丸 契約内容を精査せずに誤った金額の印紙を貼付してしまい、潜在的な法令違反リスクになる、といった恐れが考えられます。
実際に、大手企業で億単位の過怠税を徴収された事例もあります。

印紙を貼り忘れても後から貼り直せるのでは?と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、実は印紙はデザインが数年ごとに変わるので、調べられるとわかってしまう上、コンプライアンス的にも問題があります。
一応、税務署に貼り忘れた旨を申告した上で交付後に貼付できる場合もあるのですが、それでも10%の過怠税は発生します。

海野 前職は商社でしたが、法務に相談することにハードルを感じて、「以前はこうだったから」とふわっと対応しているケースも実際にありました。

軸丸 法務担当の方でも、「判断に迷うが顧問弁護士に相談するほどではないのでは」「先輩法務部員に質問しづらい」と感じ、困っているケースはあると思います。

国税庁が提供している印紙税額一覧表。課税の対象となる文書には20タイプあり、契約書がどのタイプに該当するかを判断するには契約内容をよく理解する必要があります。 引用:国税庁HP「印紙税額一覧表

― 印紙税への対応にさまざまなペインがあることはわかったのですが、電子契約の場合は印紙不要ですよね?

軸丸 たしかに電子契約の場合は印紙は不要です。
それが電子契約に移行するメリットの一つでもあるのですが、現実問題、全ての契約が100%電子契約に移行するかというと、少なくともしばらくは難しいと思います。
むしろ、紙の契約の絶対数が減るからこそ、印紙税の判断を行う機会が減り、印紙税法を学ぶ機会も減ることとなる可能性があり、結果としてますます判断が困難になるというケースも考えられます。

業務効率化に加え、印紙税について学ぶ機会にも

― 印紙税チェック機能の基本機能について教えてください。

軸丸 印紙税チェック機能は、LegalOn Cloudの一機能として提供されます。対応する文書は契約書です。
機能としては、契約書のレビュー機能と同様に契約書を内容を読み込んで印紙税の課税対象となるかなどを判断します。
そして、チェック結果に誤りはないかの判断材料となる解説記事などへのリンクを提示し、人間の目で最終的に判断していただくという機能になります。

印紙税チェック機能のイメージ

― そんな印紙税チェック機能は、ユーザーの皆様にどのような価値をお届けできると考えられますか?

軸丸 印紙税法は事業をしていく上で必ず関わってくる法律ですが、先ほどお伝えしたとおり、学ぶ機会はそう多くありません。
印紙税チェック機能は実務に添って、実際の契約書の例を用いて判断基準や観点をご説明していく解説をご提供するので、新人法務の方により実践的なかたちで印紙税の知識を得ていただく効果が期待できます。

一方、ベテラン法務の方にとっても、チェックを通してこれまでの判断が間違っていなかったかの再確認ができますので、以降根拠と自信をもって印紙税対応をしていっていただけるという利点もあるかと思います。

既存のリスクチェックとは違う次元の開発の難しさ

― 開発の苦労や難しさにはどんなことがありましたか?

軸丸 「そもそも印紙税チェック機能は実現可能なのか?」という検討の部分です。
先ほど述べた通り、チェック対象を契約書だけに絞ったとしても対象範囲は広く、AIを用いて「印紙税の適用が必要か?」などをチェックすることはかなりハードルが高いです。
「既存のAIレビューの仕組みを使うだけでは、限界があるのでは?」という意見が根強かったのです。

一方でユーザーの皆様にとっての困り事であることは確信していたので、最終的には「できるかわからないけれど、やってみよう」ということでスタートしました。
まさにAI契約書レビューの限界に挑戦するという気持ちでしたね。

山本 限界に挑戦するということで、システムの開発においてもさまざまな苦労がありました。
既存のサービスである契約書のレビュー機能は特定の契約書をチェックする一方、印紙税チェック機能の対象は全ての契約書です。
そのため、AIに学習させるためのサンプルを大量に集める必要があり、苦労しました。

また、大量に集めたサンプルを正しくAIに学習させることも大変で、想定外のチェック結果が出力されたときはチームのメンバーと密に議論して開発を進めました。

志喜屋 契約書のタイトルで類型を判断できるとは限らないですし、複数のタイプに該当する契約書もあります。
どこまで読めば第●号文書だ、といってよいのかを定める作業は苦労しましたよね。
複数のタイプ判定のアラートが出てしまうこともあり、それをどう減らしていくか、みたいな問題もありました。

― テスト段階での利用者の反応はどうでしたか?

軸丸 法務開発チームの他の弁護士などに使ってもらったのですが、「思ったより精度が高くて驚いた」という声が多かったですね。
他方、ネガティブな点としては、「出るべきアラートが出てこない」という部分でした。
これは、開発していく中で都度問題を潰していった点です。

― 今後も開発を続けていく予定ですか? 見通しをお聞かせください。

軸丸 ひとまずβ版というかたちでリリースさせていただき、ユーザーの皆様のフィードバックをいただきながら、改善に努めていきたいと考えています。
また、法改正などがあった場合にも、随時対応していきたいと考えています。

― 最後に、ユーザーの皆様に向けてメッセージをいただけますか?

山本 一人法務や若手の法務の方、非法務職である経理の方などに活用していただきたいです。
そういった方々は、印紙税の判断に不安を感じている方も少なくないと思うので。
将来的には、「印紙税といえばLegalOn Cloud」とイメージしていただけるようになるといいですね。

志喜屋 前職で印紙税の判断に困って色々と調べた経験があります。
その苦労を、これから使っていただく皆様には軽減していただいて、より適切なかたちで印紙税について学んでいっていただければと考えています。

海野 印紙税に詳しくない方でも、わかりやすく正しい判断を導き出せる機能になっていると思います。
活用いただき、少しでも業務効率化につなげていただければうれしいです。

軸丸 将来的には契約書に限らず、他の文書に関しても対応できる未来を目指していきたいと思っています。
LegalOn Cloudを使えば印紙税についてはまるごと対応できるという世界観ですね。
そのためにも、ぜひユーザーの皆様には、ダメなところはダメとはっきりフィードバックいただいて、改善につなげていければと考えています。

すぐにでも役立てていけるものでありながら、発展性もある機能といえますね。
正式版のリリースも楽しみです。
本日はありがとうございました!

「契約書に対する印紙税チェック機能」が実装される「LegalOn Cloud」に関する詳細資料は、以下よりダウンロードいただけます!


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(写真左から)海野、志喜屋、軸丸、山本

軸丸 厳(じくまる・げん) 弁護士/法務開発グループ
2017年3月、神戸大学法科大学院修了。2018年に司法修習終了後、2019年に阪急阪神ホールディングス株式会社入社。2023年2月にLegalOn Technologies入社。

山本 玲児(やまもと・れいじ) 法務開発グループ
2021年3月、中央大学法科大学院修了。2021年10月LegalOn Technologies入社。

志喜屋 真治(しきや・しんじ) 法務開発グループ
2016年、石油化学系プラントエンジニアリング会社入社。2022年9月にLegalOn Technologies入社。

海野 晃次郎(うんの・こうじろう) 法務開発リーガルエンジニアグループ
2015年、陸上自衛隊入隊、2021年10月まで勤務した後、住商エアロシステム株式会社を経て、2023年8月にLegalOn Technologies入社。

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