生成AIを活用した機能を海外拠点から逆輸入。リーガルテックならではの開発で法務業務を支える
生成AIを活用したサービス開発は、世界規模で盛んとなっており、特にIT先進国である米国では、日々、新しいサービスや機能が生み出されています。そんな米国ですでに、リーガルテック企業であるLegalOn Technologiesの米国グループ会社が生成AIを活用した機能を提供しています。
LegalOnは、日本国内におけるSaaS企業の中でも数少ない、グローバルでPMFを目指しているリーガルテック企業です。
グローバルで延べ6,000社以上のユーザーにご導入いただくまで成長し、高品質なサービスによって多方面で好評をいただいています。
そんな当社の主力サービスは、AIで契約書をレビューしたり、締結後の契約書管理に加え、法令やガイドラインのサジェストなどができる「LegalOn Cloud」です。
そしてこの度、「LegalOn Cloud」に生成AIを活用した機能の日本版「LegalOnアシスタント(β版)」をリリースしました。
今回は、PdMとして「LegalOnアシスタント(β版)」の開発をリードした守屋に、機能の概要や提供価値、開発の背景について話を聞きました。
生成AIの活用で、法務はどう変わるのか
── 「LegalOnアシスタント(β版)」とはどのような機能でしょうか?
「LegalOn Cloud」上にアップロードした契約書について、まるで実際の法務アシスタントに問い合わせるように、様々な指示・質問ができる機能です。
例えば、契約書の内容を簡単にまとめてほしい、この専門用語の意味を教えてほしい、前のバージョンの契約書との差分を要約してほしいなどの指示・質問をすることが可能です。
また、生成AIに不慣れな方のために、よく発生する作業の指示や質問をサジェストするボタンを用意し、そのボタンを押すだけで「LegalOnアシスタント(β版)」が作動する仕様も備えています。
これにより、法務担当者が行う契約書業務において、契約書レビューにおける修正文例の提案に加え、翻訳、上司・同僚や事業部門に情報共有するためのドラフト作成など、時間のかかる作業的な業務について、正確性を担保したまま効率化を実現します。
まさに「LegalOnアシスタント(β版)」という名前の通り、法務担当者の業務を包括的にサポートしてくれるアシスタントのような役割を目指した機能です。
── 今回、国内向けに「LegalOnアシスタント(β版)」を開発した背景を教えてください。
2つの理由があります。
1つ目は、法務業務の効率化を実現し、本来集中すべき業務に比重が置けるようにしたかったこと。
2つ目は、先にリリースしていた米国での評価が良かったこと。
①法務業務の効率化を実現し、本来集中すべき業務に比重が置けるようにしたかった
法務業界では、法を扱う者として「時間をかけてコツコツと経験を積み重ねることこそプロである」という、専門家としての考え方が一部あります。
もちろん、業務を一貫して担当することでスキルを磨くことは大事ですが、だからといっていつまでもアナログな業務を人力で行い続けることは、業務範囲も広がっていく中でリソースに限界があります。
例えば、中小企業においては、社内に法務担当者がおらず、代わりに代表が契約書業務を担当していることも多く、契約書業務に時間を割かれることで、それ以外の重要な業務に力を注げないという課題が出ています。
特にコンプライアンス、ガバナンス、人権など業務の幅が広がって複雑化も進んでおり、こうした契約書以外の業務に時間を割くことが難しくなっています。
これに対して、品質を下げずに契約書業務を高速化できることは、法務担当者にとっても企業にとってもプラスですし、実際に期待しているという意見も多くいただきました。
②先にリリースしていた米国での評価が高かった
米国でリリースされてから1年経たずして、すでに多くのユーザーから高評価と期待の声をいただいています。
この強みがあることで、ユーザーからの注目度が高まり、導入後の利用率も高く保てています。
グローバル向けの機能を日本に逆輸入するまで
── 先行してグローバル向けに機能提供した理由はなんでしょうか?
生成AIが話題となった2022年11月頃、LegalOnの米国グループ会社のVP of AIを筆頭とした現地のチームメンバーが生成AIに注目していました。
リーガルテック企業として法務業務に対するソリューションを提供したいことはもちろん、生成AIを活用することで法務業務に対する新たなポテンシャルを見つけたいという思いもあり、米国メンバーによって開発が始動しました。
初めての試みにも関わらず、コンセプト設計から実装まで無事に完了し、米国企業のユーザーからもご好評をいただいてます。
そして、リサーチを進めるなかで、法務担当者の課題は万国共通で、どの国でもアナログな作業に追われているという実態は大きく変わらないことがわかりました。
好評の声をいただいたことに加えて、日本でも法務担当者の課題をこの機能で解決できそうだと踏み、グローバル向けサービス・日本向けサービスの両方の開発メンバーを集めて、総力を挙げて日本版「LegalOnアシスタント(β版)」の開発にあたることにしました。
── AI分野の開発には専門性が必要となるかと思いますが、どのようなチームで開発を進めたのでしょうか?
この機能のためというよりは、LegalOnのAI領域における開発力を伸ばすために新規採用を強化していた部分はあります。
前々から在籍しているメンバーもいれば、AIを伸ばすために参画してもらったメンバーもいたり、生成AIに詳しい英語ネイティブのメンバーや開発専任の弁護士など、経験豊かで多様性のあるメンバー構成で開発しています。
── 米国拠点のメンバーも開発に携わったのですか?
はい。国内向け機能の開発にも、グローバル向け機能の開発ノウハウを組み込みたかったので、米国拠点のメンバーとは継続してコミュニケーションを取っていました。
距離があるので基本的にオンラインコミュニケーションにはなりますが、米国拠点のメンバーが来日した際には一緒に軽食を取りながらカジュアルに相談したりしましたね。
今度、日米でエンジニアを集めての開発合宿、ハッカソンを実施する予定ですよ。
── 最先端の技術を用いた開発には、高度な専門知識が求められると思うのですが、自社で完結できた背景はなんですか?
生成AIや大規模言語モデル(LLM)の研究を行う部門も自社内に存在しており、AIに知見のある優秀なエンジニアがしっかり集まっているためですね。
また、生成AIによる回答が法的観点で正しいかを判断する弁護士が、社内に多く在籍していることも自社内で完結している背景と言えます。
「作る人」「評価する人」の両方が一つ会社に揃っていることは、開発する側としてもサービスを活用する側としても安心感があると思います。
また、ユーザーがAIに投げかける質問は文字情報なので、質問文の情報を正しく読み取る必要があり、回答を生成するための参考情報となる契約書を解析する精度も高くなければいけません。
それらの情報を高精度で解析する機能(Data Integrity)もLegalOnで構築していたため、質問に対する回答の一致度も高い数字を出すことができています。
この点も当社ならではの強みと言えますね。
法務ドメインならではの工夫がある開発方法
── グローバルと日本それぞれにおいて、同じように生成AIを活用した機能やサービスは存在していますか?
国内外で契約書審査の領域や、日本国内では法令やガイドライン、過去事例のリサーチの領域で生成AIを活用したサービスや機能が提供されています。
特に米国は、市場規模が日本の10倍以上なので、より早く、より多くのサービスや機能が開発され続けています。
「LegalOnアシスタント(β版)」も米国で先行して提供し、ブラッシュアップされた機能であるため、日本のユーザーにもご満足いただけるクオリティになっていると思います。
── 法務ドメインならではの開発の難しさはありますか?
生成AIの回答の正誤を判断するのに、法的知識が必要という点ですね。
生成AIは情報を読み取って、それらしい文章を作成したり、指示の通りに動いたりはできますが、正確性を100%担保できるとは言えません。
例えば存在しない法律を提示したり、関連性のない話題を回答したりして誤った事実が生成される、いわゆる「ハルシネーション」が発生する可能性はあります。
ハルシネーションの多発を防ぐために、弁護士の力を借りながら、できるだけ多くの学習と検証のサイクルを回していましたね。
── 具体的にはどのようにサイクルを回していたのですか?
生成AIに学習させるために、自前で検証用の契約書サンプルやリクエストサンプルを大量に作成し、インプットさせていきました。
ユースケースの抽出に関しては社内弁護士だけでなく、ユーザーの一番近くにいる営業担当者などからも広く収集することで、多くのユースケースをカバーすることができました。
契約書のデータをインプットさせた後の生成AIによるアウトプット一つ一つに対しても、弁護士による検証を行いました。
── ハルシネーション以外でも気を付けていた部分はありますか?
セキュリティ面ですね。
扱っているものが契約書なので、もしセキュリティが緩い場合、どの企業がどういう契約を結んでいるのかが筒抜けになります。
情報漏洩は、ユーザーはもちろん、サービス提供側として最も防ぐべきことであり、日本向けとグローバル向けの両方において設計段階からセキュリティ面の配慮をしています。
法務業界に与えるインパクトと今後の展望
── 「LegalOnアシスタント(β版)」が、法務業界に与えるインパクトを教えてください。
法務が率先して生成AIを活用することで、質を担保しながら業務効率化を実現し、事業部への新たな視点を用いたアドバイスや、複雑化した幅広い法務業務に挑戦することができると考えています。
法務業界はまだまだ紙文化なところがあり、他の業界と比較してもアナログな作業が散見されます。
加えて人手不足や人材の流動化、求められる役割の増加も相まって、業務効率化がますます求められています。
さらに、技術進歩も著しく、AIが急速に社会に浸透する今日において、AIリスクを適切に管理する役割が企業経営において不可欠です。
その役割を担うべき法務担当者こそ、最新技術を活用することでリテラシーを深め、ビジネスを法的側面から先導できることが大切だと思います。
そこで生成AIを活用した「LegalOnアシスタント(β版)」を法務担当者が利用することで、新たな視点を持って法的側面からビジネスを先導できるのではないかと考えています。
── 今後のサービスの戦略について教えてください。
「LegalOnアシスタント(β版)」が搭載されている「LegalOn Cloud」は、プラットフォームという立ち位置として契約書業務のほかにも法令・ガイドラインのサジェスト、案件管理、ナレッジ共有など、機能を随時追加しながら法務業務をすべてサポートすることを目指したサービスです。
情報を「LegalOn Cloud」上に集約すれば、各情報を紐づけてAIが自動で情報を推薦するため、探すというムダな時間や工数を皆無にできます。
「LegalOn Cloud」はリリース時点ですでに200社ほどの企業に導入いただいており、今後もさらに多くのユーザーの法務業務を支援できるよう、開発・改善していく予定です。
「LegalOnアシスタント(β版)」もプラットフォームの一部として、業務中に困ったらいつでもアシストしてくれる存在にできたらと思っています。
最後に
生成AIを活用した機能は、リーガルテックのみならず、他業界でも類似機能はまだ多くありません。
社内でも前例が少なく、ベストプラクティスも確立されていません。
さらに、私自身が法務未経験でドメイン知識も比較的少ない中で、「LegalOnアシスタント(β版)」の開発に携わってきました。
正解がない中で理想を目指すことに迷うことも多々ありましたが、ユーザーの声や米国拠点のメンバーの支え、前向きに進めてくれる社内のメンバーによる後押しもあり、無事に革新的な機能を提供開始できたことに誇りを持てています。
「LegalOnアシスタント(β版)」によって法務業界の皆様にプラスの価値をお届けできるよう、今後も開発・改善を継続してまいります。
※「LegalOnアシスタント」は正式版提供時に有償となる可能性があります。