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高度な知識と緻密さが求められる契約書ひな形はいかにして作られているか?

「LegalForceひな形」1,000点突破を記念し、「ひな形とは?」を解説した記事から2か月。
早くも点数が1,400点を超えました!
法務プロフェッショナルの高度な知識の結晶であるひな形は、いかにして作られているのか?
社外法律事務所も巻き込みながら驚異的なスピードで作成を重ねる舞台裏を、われらがひな形グループの弁護士らメンバーに聞いてみました。

谷口 香織(たにぐち・かおり) 弁護士/ひな形グループ・法務グループ
2006年上智大学法学部卒業。2009年弁護士登録(第二東京弁護士会)。同年、第二東京弁護士会の公設事務所である弁護士法人東京フロンティア基金法律事務所に入所。2011年、日本司法支援センター(通称法テラス)に入所、各地の法テラス事務所に赴任。2017年、参議院法制局に任期付き弁護士として入局。2019年、法務省訟務局に任期付き弁護士として入局。2022年4月から現職。

門馬 由佳(もんま・ゆか) ひな形グループ・法務コンテンツ企画グループ
関東学院大学工学部卒業。大学卒業後、経理、営業事務などを経て法務にキャリアチェンジ。医療関連機器メーカー、総合流通大手子会社、ベンチャー企業等で約4年の法務経験を積む。2022年4月、LegalOn Technologies参画。営業・営業支援に携わった後、現職。現在、慶應義塾大学通信教育課程法学部法学科に在学し、法律に関する知見を深めている。

(写真左から)弁護士の谷口、元法務担当者の門馬。

契約書ひな形作りは辞書編纂のような正確さが求められる

― 前回のインタビューでは、グループリーダーの今野さんに契約書ひな形の存在意義や「1,000点でも足りない」事情などを伺いました。
今回はひな形作りのフローや苦労について伺いたいと思いますが、まずはひな形グループの座組みについて教えてください。

谷口 ひな形グループには、弁護士とそれ以外のメンバーが半々くらいずつ所属しています。
弁護士以外のメンバーも全員が法務経験者かロースクール卒ですから、全メンバーが法務関係者ということになりますね。
実はひな形作りではサービスのシステム周りを触る必要もあるのですが、ひな形のリリースに関してはそういった部分も基本的に法務関係者だけで対応しています。

― 開発組織に属するとはいえ、エンジニアはいないのですね。

門馬 そうなんです。作成したひな形は最終的にシステムに組み込む必要がありますが、その作業は主に私たちの組織が担当しています。

作業は結構複雑で、ITスキルが必要なシステム上の作業も発生します。
大体「仕事の半分は法務的なもの、残り半分がシステム的なもの」ですね。
といっても扱うのは大部分が文書ファイルなので、法務知識が大切なのは間違いないですが……

― なるほど。作業について少し見えてきましたが、より詳しく伺いたいと思います。
ひな形作成にはどのような作業があるのでしょうか。

谷口 新しいひな形は大まかに、

  1.  企画会議で何に関するひな形を作るかを決める

  2.  その分野に明るい法律事務所に作成を依頼する

  3.  ひな形やサービス内で公開している解説記事の初稿をいただき、グループ内でチェックする

  4.  必要に応じ文書ファイルで修正のやり取りをする

  5.  グループ内で表記揺れや書式など形式面を整える

  6.  ひな形や解説記事が最終化したらシステムを使ってサービスに組み込む

という流れで作成します。
弁護士メンバーが1.から4.を、非弁護士メンバーが5.から6.を担当するイメージですね。

― 何に関するひな形を作るかは、どういった観点で決めるのでしょうか。

谷口 一つは新しい法律や改正された法律に対応するために、新規作成すべきひな形がないか、という観点です。
例えば最近では特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、いわゆるフリーランス保護新法の施行に向けて、これに合わせた業務委託契約書をリリースしました。
なお、既存のひな形も同様の観点でメンテナンスしています。

もう一つはお客さまからのご要望に応じて、ですね。
営業担当者が吸い上げたお客さまの声を参考に、ニーズのあるひな形を検討します。
また、社内の法務担当者にヒアリングする場合や、商談に同席させていただくなど直接お客さまにヒアリングする場合もありますね。

他には、その時々の注目トピックに即したひな形も検討します。
例えば、コロナ禍で緊急事態宣言が発令された際には、テレワーク関連のひな形をリリースしました。
これはニーズも高く、タイムリーに提供する社会的な意義も大きいものでしたので、2020年4月に初めての緊急事態宣言が発令されてから2週間でリリースし、希望者へは無料配布も行いました。

― 社外の法律事務所には、それぞれ得意分野のひな形を執筆依頼するのでしょうか。

谷口 そうですね。医療分野に詳しい事務所、不動産業界に詳しい先生など、いろいろです。
最近は新しい事務所とのお付き合いも広げていますよ。

ちなみに、社外の弁護士の先生方と「協力して一つのものを作り上げる」という経験ができるのは、この仕事ならではだと思います。
企業法務の世界では、顧問弁護士の先生に個別に相談するといったことはありますが、共同作業する仕事は稀ですから。

― それは確かに珍しい関係性ですね。
そうして法律事務所から上がってきたひな形の初稿は、どのようにチェックするのでしょうか。

谷口 作業としては、六法や行政機関が公表している資料などの参考資料を見ながらの事実部分の確認です。
条文の引用箇所を突合したり、法令や行政機関の説明と照らして誤りなく記述されているかなどをチェックします。
これは誤りがあってはいけないので、かなり緻密にやります。
同じグループの弁護士だけでなく、時には違うグループの弁護士や、社内の知財や労務の専門職の方の目を入れてダブルチェックしたりしています。

既存のひな形との整合性についてもチェックします。
同じような契約書なのに条項が微妙に違う、などということがあると、お客さまが混乱されてしまうので。

あとは条文通りの言い回しがいいのか、それだと分かりづらいので噛み砕いたほうがいいのかなど、「より良いひな形」という観点でもチェックしますね。

― かなりの観点で緻密にチェックするのですね……
そうしたチェックは大体どれくらい時間がかかるものなのでしょうか。
谷口 ピンキリですが、5ページくらいでも集中して1時間はかかります。

― 続いて、形式面のチェックというのは具体的にはどのようなチェックなのでしょうか。

門馬 漢字表記の揺れやインデントの不揃いなどです。
形式面についてはある程度フォーマットを決めていますが、ひな形の内容により少し異なる形となる場合や、過去に提供しているひな形とのずれが生じる場合などがあるので、1文字ずつ細かくチェックします。
他には誤字脱字とか、「甲と乙が逆になっていないか」などの校正もしています。
とにかく数が多いので、1日中ひたすらインデントだけ見ている日もあります(笑)。

― それは大変ですね。間違いが許されないという印象を受けました。
他にもひな形グループの業務はあるのでしょうか。

門馬 既存のひな形のメンテナンスがあります。
法改正があった場合は、関連するひな形をピックアップして精査します。
法改正については、他部署とも連携し複数のメンバーで常にウォッチしています。

内容のアップデートだけでなく、「ここが分かりにくいのではないか」「解説を追加しては?」など、ブラッシュアップの議論もしています。

谷口 ひな形に関する問い合わせ対応もしています。
ご要望にお応えすることはもちろん、新しいひな形の企画のヒントになる場合もあるので、とても大切な仕事です。
お客さまへのご案内は、弁護士法に違反しない可能な範囲で行っています。
分かりづらい契約類型などについて解説する記事を作成する仕事もありますね。

ひな形グループ弁護士の典型的な1日。月の前半は特にひな形や解説記事のチェック業務が増えがち。

大変だからこそ、“ならでは”の面白みもある

― ひな形を作るという仕事は、正確性がすごく求められて大変だと思いますが、法務関係者にとってどんなやりがいがありますか?

谷口 既存のひな形を扱うのではなく一からアイデアを考えるため、クリエイティブな面白さがあると思います。
業界幅広く契約書を取り扱うので、いろいろな業種の業務内容や関連法を知ることができるのも面白いですね。

門馬 私は前職が企業法務ですが、日々審査する契約書は基本的に似ている類型が多かったです。
ひな形作成では本当に幅広い分野を扱うので、大変ではありますが、やりがいも感じます

― やはり不慣れな分野の契約書は読み解くのが難しいものなのですか?

谷口 そうです。そもそも全ての分野に精通している弁護士はいないと思います。
不慣れな分野のひな形の中には、「これは日本語なの?」と思ってしまうようなものもあります(笑)。
その業界特有の商慣習もあって、理解するのが難しいこともあります。

門馬 日々勉強ですね。それも幅広い分野の知識が必要になるので大変です!

― 勉強好きなのがひな形作成の必須スキルということですね。

門馬 はい。本当にいろいろな業界の契約書にふれるので。
でもこれは面白さにもつながることだと思います。
あとトレンドに敏感であることも必要かなと思います。
私も、法改正はじめ、法務ニュースにはいつもアンテナを張っています。

谷口 投げ出さない根気強さも必要ですよね。
一つのひな形を粘り強く、何度も見返してより良いものにしていく。
その工程を楽しめることが大切なのではと思っています。

― 契約書などのひな形づくりは、地道な積み重ねが必要な作業なのですね。
その緻密さで、1,400点を超えるひな形を作っているのは大変な作業だと思いました。
本日はありがとうございました!

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