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360度フィードバックを哲学思考で振り返る大手IT企業も実践する「哲学対話」

LegalOn Technologiesでは、周囲のメンバーから多角的にフィードバックを集める「360度フィードバック」を実施しています。
今回、その360度フィードバックからより深い気づきを得るため、哲学思考を取り入れる試みを行いました。
変化の激しいスタートアップ環境においてこそ、時には自分自身の考えや行動を見つめ直し振り返る機会が必要となるからです。

そうして実施されたのが、「哲学対話」ワークショップです。
東京大学の専門家、堀越さんを招いて行われました。
一体どのような試みなのか? 広報の田島が体験してきたので、当日の様子を詳しくレポートします。

【哲学対話とは?】
参加者が車座になって、答えのない問いに対して自らの体験を基に様々な観点から語ることで考えを深めていく手法。
対話を通して、「“なんとなく”考えていることを言語化、認識できる」「物事を見つめる視点や思考の材料を増やせる」といった効果が期待できる。
欧米ではAppleやGoogleなどが企業内哲学者を雇用して、ビジネスに哲学思考を取り入れており、近年は日本でも企業や学校等で広がりを見せている。

ワークショップのファシリテーター
堀越 耀介氏(ほりこし・ようすけ) 東京大学UTCP上廣共生哲学講座 特任研究員
独立行政法人日本学術振興会特別研究員(PD)。博士(教育学)。
SBI新生銀行、MIXI、三井不動産、電通、NECソリューションイノベータ、HONDAなど多くの企業の要請で哲学研修/哲学コンサルティングを実施。教育哲学的な観点からの哲学対話(P4C)研究が専門。著書に『哲学はこう使う: 哲学思考入門』(実業之日本社)。

哲学対話とは、「わかる」「わからない」を同時に増やしていくこと

「哲学対話」は二日に分かれて行われ、それぞれメンバー回とリーダー回でした。
以下はメンバー回に参加した時の模様です。

参加メンバーには、事前課題が出されていました。
それは、「過去に実施された360度フィードバックの設問と結果を見返して、気になった言葉や思い当たることを書き出す」というものです。
360度フィードバックの結果はすでに確認していたものの、課題であらためて振り返ってみると、なんとなくの理解で済ませてしまっていた部分もあるなと気づきました。
こうした“なんとなく”に対する解像度を上げることも、「哲学対話」の重要な効果だそうです。

ワークショップは「哲学対話とは?」の説明からスタート。
対話のルールとして、

  • 対話は会話でも勝負でも意見交換会でもない

  • 常識にとらわれない、「いい人」にならなくていい

  • 意見は変わっていい

  • 結論は出なくても、それを目指す

  • 話すより、問う。聞く

  • 自分の言葉と経験で話す

という六つが提示されました。
相手を論破するのでも、「人それぞれ」と異なる意見を認め合うのでもありません。
満場一致というゴールには至らなくても、背景や価値観を理解しながら合意を目指そうというのが「哲学対話」のかたちなのですね。

続いてアプローチの方法についてもコツを聞きました。
対話を深めるためには、以下の六つを意識するのが大切なのだとか。

  • 「そもそも〜とは?」と本質を問う

  • 「AとBの違いは?」と関係を問う

  • 一般化する場合は慎重に

  • 「なぜそうなの?」と前提・理由を問う

  • 「もし●●だったら?」と思考実験してみる

  • 「たとえば?」「違う場合は?」と例や反例をあげてみる

また、「哲学対話」のポイントについて、堀越さんは以下のように語ってくれました。
「哲学対話は“わかりの経験”です。
例えば赤ちゃんは森を見ても緑の固まりにしか見えませんが、大きくなるにつれ森、林、木、葉など名前を知り、分けて理解できるようになります。
更に大人になると、知らない、分からないものがある、ということを理解出来るようになり、これが哲学思考につながっていきます。
哲学対話では、『わかる』『わからない』を同時に増やしていくことが推奨されます。対話が終わることはありません」

そんな前提を説明されましたが、なんとも難しい。体験しないとイメージができなさそうです。
「ワークショップはどこに向かうのか……」という疑問が頭に浮いたまま、対話スタートです。

問いが問いを生み、対話が深まる不思議な空間

続くアイスブレイクでは、事前課題を発表しあっての自己紹介を行いました。
「自己評価が控えめ」「話が長い」など、課題を通して得た内省ポイントを語るのは気恥ずかしさがあるかなと思いきや、場の空気感のおかげなのか、みんな率直に語ることができていた印象です。

続いて「哲学対話」のテーマ決め。
テーマは堀越さんが今回のワークショップのためにいくつか設計してくれたものから全員で選びました。
「考えの受け止めとは?」「自分起点であるとは?」「自己変革って何?」など、ビジネスシーンで直面しそうなテーマが提示されましたが、やはりそれぞれ事前課題で意識したものと結びつきやすいテーマを希望していました。
そして選ばれたのは「積極的であるとはどういうこと?」というテーマです。

対話が始まれば、堀越さんが問いによって流れを作りながら進みます。
「積極的と聞いて何を思い浮かべる?」
「自分の意思で行動する人」
「自分の意思って?」
「目的と目標があればそれが意思だと思う」
といった具合です。

テーマには明確な正解はありません。
時には参加者からも問いがあがります。
問いが問いを呼び、「こういうことかも」という考えが提示された後に、別の観点での意見があがります。
問いが問いを呼び起こし、考えが深まっていく感じはとても心地よく、みんな夢中になって話し合いました。
そうして気がついたらあっという間に終了時間。

人それぞれ違っても、何かしら得たことを実感できた

最後にみんなで振り返ると、
「積極性というと自分自身の問題だと思っていたけど、(通常であれば受動的と思われそうだが)周囲の目を意識することによって、むしろ積極的になれる人もいるという事に気づいた」とテーマそのものから気づきを得る人もいれば、「共通認識だと思っていたことに、人それぞれズレがあることに気づいた」という議論の枠組みの中で気づきを得た人もいるなど、多様な発見を持ち帰る結果となりました。

私個人としては、人の問いや考えに引っ張られて、「つまりこういうことかも」と自分なりの答え的なものが見える、腑に落ちるという感覚が気持ちよく、対話そのものが楽しく感じられたという感想をもちました。
得るものは本当に人それぞれですね。

なお、翌日のリーダー回も見学してきたのですが、そこでは「変化を受容するとは何か」というテーマが選ばれていました。

リーダー回では、受容という言葉に対してもっているイメージの違いや、変化を受ける側にいるのか起こす側にいるのか?という立ち位置の違い、受容するために必要な理由/解釈など様々な観点から対話が進んでいきました。

振り返りでは、
「(「哲学対話」は)他者理解に効くツールだと思った。」
「具体をどうよくするか?は普段コミュニケーションするが、今回のように正解がない話をする機会は敢えて設定しないとない
「1on1などで活用したい」といった声もあがっていました。

今回の「哲学対話」は360度フィードバックをもとに、視点を広げ、正解のない問いに対してどのように考えを深めていくかのとても良い実践機会となりました。
参加後アンケートでも、全員が「満足」「とても満足」と回答しており、「業務や自身の内省において役立つ視点を得られた」と回答した方が8割超えと、良い学びの機会となったことが伺えます。

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