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フリーランス新法とは? 実務対応上の注意点とAIによる解決策を弁護士が解説! 【現場の悩みFAQ付き】

こんにちは、LegalOn Technologiesにてリーガルテックサービスの法務コンテンツ開発を務める弁護士の軸丸(じくまる)と申します。
LegalOnでは2024年8月28日、提供する2つのサービス「LegalOn Cloud」「LegalForce」において、フリーランス新法に対応するチェック機能の提供を開始しました。

この新機能の開発に、私は非常に強い思い入れがあります。
なぜなら、これまで民法改正や個人情報保護法改正に対応してきた経験から、改正法や新法への対応には非常に時間と労力がかかることを理解しているからです。
改正法や新法への対応は、実際に対応することに時間と労力がかかることはもちろんのことながら、対応の要否の検討のために情報を集め、整理する必要もあるのです。
さらに新法への対応の場合、これまで対応していない事柄にも対応する必要があり、法改正と同じかそれ以上に対応に時間と労力がかかるものです。

この法律は、フリーランス(法令上は、特定受託事業者といいます)の方およびフリーランスと取引のある全ての企業(法令上は、業務委託事業者や特定業務委託事業者といいます)に関係する、非常に影響範囲の大きな法律です。
その一方、11月の施行が迫るなか、十分に備えられていない企業がいるのではないかという危惧を抱いています。
そこで今回、フリーランス新法の概要から実務上の注意点、今回リリースした新機能のご紹介まで、法務の方以外にもわかりやすく解説したいと思います。
皆様の参考になれば幸いです。

軸丸 厳(じくまる・げん) 弁護士/法務開発グループ
2015年3月関西学院大学法学部卒業、2017年3月神戸大学法科大学院修了。2018年に司法修習修了後、2019年に阪急阪神ホールディングス株式会社入社。企業内弁護士として、同社法務担当と阪急電鉄株式会社法務担当を兼務。2023年2月にLegalOn Technologiesに入社。


個人で働く人の働く環境を守るための法律

2024年11月1日に、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス新法)」が施行されます。
この法律の目的はフリーランスの立場の保護です。

働き方の多様化に伴い、個人で業務を請け負うフリーランスとして就業する人が増加しています。
一方で、フリーランスは原則として労働基準法で保護されず、場合によっては下請法も適用されません。
また、交渉力などの格差もあり、取引上弱い立場に置かれ、報酬の遅延や一方的な報酬減額など、トラブルに巻き込まれがちでした。
その状況を是正し、フリーランスが安心して働ける環境を整備することがフリーランス新法の狙いです。

フリーランス新法は、主に以下の4つの措置を委託側に求めています。

  1. 書面等での取引条件の明示

  2. 報酬の原則60日以内の支払い

  3. 報酬の減額、買いたたきなどの行為の禁止

  4. 的確な募集情報の表示

  5. ハラスメント対策および出産・育児・介護への配慮

1.は具体的に、「取引当事者の名称」「委託日」「依頼する内容」「納品日・作業日」「納品・作業の提供を受ける場所」「報酬額」「支払期日」などの明示が必須とされています。
2.作業または納品完了からの起算で、同時に“できるだけ早く”支払うよう定められています。
3.委託者という優越的立場を利用してフリーランスを不当に扱う行為の禁止です。
4.はフリーランスの募集時に虚偽や誤解を招くような表現をしないこと、5.はパワハラ、セクハラなどの各種ハラスメントの禁止、育児中などのフリーランスに対して必要な配慮をすることなどを求めています。

取引条件の明示の例。条件の明示は契約書でなくてもよく、また書面ではなくPDFやSNSのメッセージでもよい(削除されないよう別途スクリーンショットなどでの保存が推奨される)。

さらに、半年以上契約を継続している場合、契約解除・不更新に際しては30日前以上の予告義務も発生します。
これらに違反すると、法人の場合は法人とそれを行なった人のいずれもが罰せられ、50万円以下の罰金が科せられます。

(参考:内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)パンフレット」https://www.mhlw.go.jp/content/001278830.pdf

資金規模の小さい企業ほど新たな対応を迫られる

フリーランスの活躍の場は多岐にわたるため新法の影響は業種を問いませんが、企業規模でいうと特に資本金1,000万円以下の企業に影響が大です。
なぜなら、フリーランス新法が規制する内容は下請法と重なる部分が多く、かつ資本金1,000万円以下の企業が発注側の場合、下請法の適用外となるためです。
より具体的にいうと、資本金が1,000万円より多い企業の場合、既に下請法の対応を行なっており、フリーランス法の対応は、下請法の対応と重複する部分もあるので、下請法対応の延長として対応を進めることが可能。
しかし、資本金1,000万円以下の企業の場合1から対応をしなければならないということです。

フリーランスとの取引の現場においては、契約書・発注書はおろか、文書での条件提示もないままに仕事を発注していた、というケースも少なくありません。
その結果、「支払日を決めておらず、フリーランスから催促が来てしまった」「成果物1個あたり1万円との取り決めだと思っていたが、フリーランスから1個当たり2万円との主張がなされ、トラブルとなった」といったような事例もあります。

それが、今後は書面または電磁的記録によって、必要な情報を明示した上で発注しないといけなくなるのです。
 ※ 記録として残りさえすれば、SNSのダイレクトメッセージなどでも問題ありません。
明示義務を確実に遵守するためにも、実務対応としては、新法施行以降は委託先には一律で契約書、発注書の形式に則った書面での発注を行うことが望ましいでしょう。

また、書面で条件を提示していても、明確に条件を記載していなかったため、その後のやり取りで齟齬が発生してトラブルとなる事例もあります。
例えば、「発注書によりフリーランスに依頼をしたが、納期を明確に記載できておらず、希望した納期までに届かなかった」「発注者は、梱包業務と配送業務の依頼をしたつもりで発注書には『配送業務など』と記載したが、フリーランスの認識は配送業務のみであったため、トラブルとなった」などです。
こうしたトラブルは、一般的に企業に依頼するよりも依頼しやすいと考えられている、フリーランスとの取引において比較的起こりやすいものです。

フリーランス新法に違反した場合の罰則についてはすでにお伝えしましたが、委託者側のリスクはそれだけではありません。
新法施行が後押しとなり、これまで立場の弱かったフリーランスの方々が声をあげやすくなります。
厚生労働省より第二東京弁護士会が受託して運営されている契約トラブル相談窓口「フリーランス・トラブル110番」にもより一層声が集まりやすくなるでしょう。

そして、今はSNSで簡単に情報が広まる時代です。
フリーランスに対して不当な扱いを行った企業はすぐに悪い噂が広まり、委託先を失うだけでなく、顧客その他の信用失墜(レピュテーションリスク)にまでつながりかねません
フリーランスの待遇への悪印象は、その後の採用計画にも悪影響を及ぼすでしょう。
このように、新法への対応は、フリーランスとの取引があるすべての企業にとって、喫緊の課題だと言えます。

実務上のペインが大きい新法に対応するため、独立した新機能を開発

フリーランス新法に対応するチェック機能のチェック結果表示画面。右にアラートが修正文案などと共に一覧で表示され、左の契約書本文内の該当箇所は強調表示される。 ※画像はLegalOn Cloudのイメージです。

こうしたフリーランス新法に対して、契約面での対応を適法かつ効率的に行うために、弊社サービスであるLegalOn Cloud、LegalForceで通称フリーランス法チェッカーを開発しました。
 ※ LegalOn Cloudでは「法令遵守チェック(フリーランス法)」、LegalForceでは「フリーランス法チェッカー」という機能名称。

具体的な機能としては、「明示義務が明記されていない」などの抜け漏れ、「記載された支払期日が法が規定する期間より長い」などの違反行為に対して、AIがアラートを出してくれるというものです。

指摘項目には指摘内容とその根拠、法律解説が記載され、さらに政府のガイドラインへのリンクもあるので、法律に関する知識のキャッチアップができるという点で、契約面以外での新法対応もできるといえるかもしれません。

かゆいところに手が届き、最新制度にも対応したフリーランス法チェッカー

もともと、LegalOn CloudとLegalForceには下請法チェック機能、独占禁止法チェック機能が実装されています。
下請法、独占禁止法のチェック機能に、今回のフリーランス法チェッカーが加わることにより、より多くの取引に関して法令に遵守しているかをチェックできることになりました。

これらのチェック機能はいずれもお客様の利用率が非常に高く、またフリーランス新法は下請法よりも適用範囲が広いため、ニーズがあるであろうとは考えていました。
一方で、開発までの道のりは、けっして平坦ではありませんでした。
なにしろ“新法”ですから、参考にできるサンプルがほとんどなかったのです。

「どのようなアラートを出すべきか?」「どのような違法行為を想定しておくべきか?」など、想定で開発を進めなければならない部分も多く、本当に苦労しました。
苦労しましたが、最終的には「この機能さえあれば、最初の取引から適法な書面を作成でき、実務における対応もサポートできる」というレベルまで持っていけたと自負しています。

機能のアピールをさせていただきますと、まず委託者側だけでなく、受託者側、つまりフリーランスの立場でのチェックも可能だという点です。
特に士業の方、個人で業務を請け負っている弁護士や社労士の方などに使っていただきやすいかと思います。

さらに、リリースのぎりぎりまでブラッシュアップを続けることで、2024年5月に制定された最新の規則にも対応しています。

また、これは弊社のレビュー機能全てに言えることですが、チェックの早さも特長の一つです。
数秒で完了するので、「この取引は下請法の適用? それともフリーランス新法の適用?」と迷った場合は、とりあえず両方のチェックにかけるという使い方も可能です!

また、LegalOnでは1,700点以上の契約書ひな形を提供しており、こちらでもフリーランス新法に対応した業務委託契約のひな形を追加しています。
それだけでなく、新法第3条で交付が義務付けられている3条通知(製造委託、情報成果物作成委託、役務提供委託など)のひな形、さらには条文検索対象としてご利用いただける新法関連条文集なども提供開始しております。

フリーランス新法に対応しているひな形の一覧画面。 ※画像はLegalForceのもの。

【おまけ】フリーランス新法に対する疑問・お悩みFAQ

Q. フリーランスに仕事を仲介する仲介業者です。新法は当社にどのような影響がありますか?

単に仲介を行っている場合は新法の適用はありません
一方で、フリーランスに対して再委託をしている、実質的にフリーランスに業務委託をしているといった場合には、新法が適用されます。
業務委託と言えるかどうかは、委託内容への関与の状況、契約内容や取引実態などを総合的に考慮したうえで判断されます。

Q. 取引条件の提示が義務とのことですが、発注の段階では全ての事項が確定していないこともあります……

未定事項について正当な理由がある場合、必ずしも委託時に全ての事項を明示しなくてもかまいません。ただし、決められない理由の明示と、明らかになった段階で速やかに具体的内容を明示することは必要です。

Q. 自社が下請けでフリーランスが孫請けの場合、60日ルールを遵守しようとすると元請けからの入金前にフリーランスに支払いをしなければならないことになります。立て替えないといけないのでしょうか?

フリーランスに対し、再委託であること、元請けの委託者の情報を提示することなどを前提に、「元請けの支払期日から30日以内」にフリーランスへ支払えばよいとされています。なお、通常通り納品・作業完了日から60日以内に支払う対応も可能です。

新法対応は法務力が弱い中小企業にこそ求められる。それを補うAIの活用を

先日、大阪で開催された厚生労働省・公正取引委員会・中小企業庁主催のフリーランス新法説明会に参加してきました。
説明会は満席で、質疑応答でも実務での対応などリアルな質問が多く寄せられ、同法への関心の高さがうかがえました。

フリーランス新法は今後も継続的に対応し続けねばならない法律ですし、違反によるレピュテーションリスクも小さくはありません。
一方で、特に対応を求められる中小企業は法務人材が不足しがちで、万全に対応する体制を整えることは困難です。
そのような状況下では、AIの力を借りることは非常に有効です。
ぜひ今回私たちが提供開始するフリーランス法チェッカーをお使いいただき、フリーランスの方々と良好な関係を築いていっていただければと思います。

その他お知らせ

フリーランス新法については、契約ウォッチでも法律の概要からその制度背景、実務における対応までわかりやすく解説しています! ぜひご覧ください。

フリーランス法チェッカーを提供する「LegalOn Cloud」、「LegalForce」の製品資料は、以下よりダウンロードいただけます!


最後までお読みいただき、ありがとうございました!